たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

帰ってきた馬の市

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2 週間ほど前に市役所からのペラ一枚の通知がポストに入っていました。新しい条例の下での初めての馬の市が 3 月 3 日に開かれるというお知らせでした。

 

スミスフィールドの馬の市の歴史は 17 世紀半ばにまで遡るんですが、2 年前に参加者の間で発砲事件が起きてから中止になりました。中止になったと言っても、馬の市は組合みたいな組織が統括しているわけではなくて、馬の持ち主が毎月第一日曜日に自発的に集まっていただけですから、人は集まってくるんだけど、警察が道路を通行止めにして広場に入れさせない、みたいな攻防が繰り広げられていました。さすがに最近はほとんど来なくなっていたけれど。

 

当日、11 時ごろに外に出てみると、すでにかなりの人が集まっています。まず、市の様子を写真でご紹介します。

 

シンデレラの馬車です。結婚式用。
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馬具屋さんです。
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蹄のメンテナンスをしているところ。これは初めて見ました。やすりで削ったり、とんかちで叩いたりしていました。女性がネイリングしてもらっているみたいに、馬が気持ちよさそうにされるがままになっているのが面白かったです。
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警備には、騎馬隊のお巡りさんも来ていました。
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ミュージシャンの演奏もあって、総合文化イベントとして観光客を呼び込もうとしているのがわかります。
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広場に面したビルのイベントスペースでは、スミスフィールドの歴史に関する講演がありました。最近のスミスフィールドの様子を環境映像のようにバックで流しながら、ジャーナリストの人が話をするという趣向です。

 

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お話はあっさりと終わったんですが、質疑応答の時間になってお客さんの方から今回の市に関する不満が爆発しました。

 

もう、こんなの馬の市じゃないよ、と。あまりにもコントロールされすぎていて、雰囲気も何もあったもんじゃない、ということです。

 

売買する馬を連れてきた人によれば、広場に着くまでに 4 回も警察のチェックを受けたそうです。馬の登録証の他に、この市で売買するための許可証を申請して取得しないといけなかったそうなんですね。それを見せろと。この許可証はお金がかかることもあってか (30 ユーロと言ったと思う)、申請数も少なくて、たった 48 枚しか発行されなかったそうです。「市役所はなんでも金、金、金」。「5 年前に戻してくれ」と言ってました。

 

イギリスからこの市を見に来た観光客のおじさんも (たぶん馬かカメラが趣味なんだと思う)、「これまで何回か来たけど、以前はこんなんじゃなかった。市は死んでしまった。つまらないからもう来ません」と怒ってました。

 

近所に住んでるというおじさんも発言して、この人が一番熱くなってたんだけど、市役所がこういう風に馬の市のスピリットを骨抜きにするのはけしからん、みたいなことを言ってました。この人は、講演したジャーナリストにも八つ当たりして、「文化だとか、アートだとか、あなたのようなジャーナリストも市役所の企みに肯定的なスピンをかける共犯者だろう」と言ってました。

 

彼らの言うことはもっともなんですよ。実際に馬を売買する人よりも、カメラを持った観光客の方が多いくらい。以前はもっと活気もあったし、生身の馬と人間が集う場所という雰囲気が漂っていました。今回のは、どちらかというと観光客向けの馬関連産業のショーケースのようです。たとえて言うと、以前の市は稼働しているギネスの実際の工場を覗かせてもらっているようなワクワク感がありましたが、今回のはギネス・ミュージアムですね。小奇麗なんですが、とてもよそいきです。築地市場でもそうだと思いますけど、あれは生きた市場を覗き見させてもらってるから楽しいのであって、観光客向けに展示されたら面白くないですよね。メディアも「sanitised version」(衛生処理された) 馬の市なんて言っていました。

 

市役所はこの馬の市をずっと別の場所に移動させようとしていたので、馬のトレーダーの人たちにはいろいろわだかまりもあるのでしょう。ただ、馬の福祉だとか公衆の安全だとか、いろいろ懸念される部分があるのも事実なわけです。だからどこかで妥協点を見つけないといけないわけですが。

 

とりあえず、しばらくは馬の市は 年 2 回行われます。次回は 9 月の第一日曜日です。