たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

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チェスター・ビーティー・ライブラリと竹取物語

一般の人にとっては、チェスター・ビーティー・ライブラリはダブリン城の裏手にある小さな図書館というよりも美術館です。チェスター・ビーティーさんはアイルランド系アメリカ人で、前世紀の前半に鉱山王として成功した大立者です。オリエンタル美術の収集家で、彼が寄贈した作品がこのライブラリに展示されているわけです。
 
竹取物語の絵巻物が 2 年にわたる修復作業を経て新たに展示されていることを beforesunrise さんに教えてもらったので、さっそく見てきました。
 
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竹取物語は平安時代に創られたお話だそうですが、この絵巻物自体は江戸時代初期のもの。これ以前の竹取物語の絵巻物は見つかってないらしくて、現存する最も古いもののひとつだそうです。絵師は狩野派の人らしい。
 
絵巻物って、絵の描いた巻物、という、そのまんまのイメージしかなかったのですが、実際に見てみると、絵とテキストが交互に並んでるんですね。ひとかたまりの絵または文章は、目の前に広げて見られるくらい、1メートルちょいぐらいでしょうか。文字ももちろん筆耕屋さんが書くような流麗な文字です。
 
物語の方もディテールはすっかり忘れていました。求婚してきた5人の貴族がそれぞれ難しいタスクを与えられて、右往左往する滑稽味のある部分とか、天皇が狩りという大義名分を作って、かぐや姫の家に泊まりにくるところとかですね。
 
最後の絵では、育ててくれたおじいさん、おばあさんとのセンチメンタルな別れの場面、月からの使者とそれを迎え撃つ天皇の軍隊との活劇の場面、そしてかぐや姫からもらった不死の薬を「かぐや姫のいない世界で長生きしても虚しいだけだから」と天皇が富士山の山頂に焼きに行くエピローグまでが一気に描かれます。
 
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一枚の絵の中にいろんな場面が描かれるので、時の流れや場所の移動が、たとえば一枚のふすまを隔てるだけで表現されます。その辺の大胆な省略というか技巧というかお約束は、私がまあ美術に詳しくないからだとは思いますけど、とても日本的だな、と思ったのでした。歌舞伎の黒子とか、明らかにそこにいるのにいないものにするとかですね。
 
話が飛んで恐縮ですけど、10年ぐらい前に流行ったフラッシュ動画で「しぃのうた」というのがあります。これも、主人公のしぃは段ボールの中にとどまっているのに、隣の花瓶の花や虫で季節の移り変わりを表したりとか、そういうところが竹取物語の技法に通じるものがあると思いました。まあ何度もいいますが、私は美術は詳しくないので、他の国にもそういう技法はいろいろあるんでしょうけど。
 
この「しぃのうた」も、短い動画なんだけど、静・動・静のきっちりした三部構成になっていて、展開部の動の部分も、恋人たちを乗せた気球のダイナミックな動きから、打ち上げ花火の絵から2人の後ろ姿へ下にパンして郷愁を誘い、最後はツーショットからカメラが回り込んで主人公のアップに移行して見てる人の感情移入を喚起するとか、ほんとによくできてるなーと思う。まあたぶん、アニメーションの学校に行けば教えてくれる基本的な技巧なのかもしれないけど。
 
 
アイルランドの人は文学とか演劇とかテキストの方が得意だと思うけど、日本は絵みたいに気持ち全体を浸して感じちゃうような形式の方が得意ではないでしょうか。音楽でも、アイルランド人のほうが圧倒的にリズム感はいいと思うんだけど、彼らのカラオケの下手さは目に余る。
 
今回の絵巻物の修復は住友財団の援助によりオランダ、ライデンのフォルケンクンデ美術館にて行われたそうです。88888888888  展示は 8 月 5 日まで。
 
 
 

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