たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

首くくり栲象 (くびくくり・たくぞう)

今、ダブリン・ダンス・フェスティバルが開かれています。それで、メインゲストのひとりとしてニューヨーク在住のヤスコ・ヨコシ (余越保子) さんというダンサー/振付師が招待されています。日本人もいろいろなところで活躍されていますね。

 

このフェスティバルのことは土曜日の新聞で知ったんだけど、ヨコシさんのとった映画がスクリーン (という映画館) で上映されるというので、昨日の日曜日に見てきました。

 

タイトルは、『Hangman Takuzo』です。Hangman Takuzo は首くくり栲象 (くびくくり・たくぞう) さんといって、首つりのパフォーマンスを 40 年以上毎日行っている人です。会場は主に東京郊外の自宅の庭で、お客さんはちょっといたり、いなかったりするらしいです。

 

ヨコシさんは、栲象さんとその彼女のミカさん、そしてゼンシンホコウ (漢字わかりません) というパフォーマンスを行うカワムラ・ナオコさんを連れて、自身の出身地である広島県の島に行き、栲象さんのパフォーマンスをテーマに映画を撮ることにします。

 

1 時間ほどの映画なのですが、シーンが 4 つで、カットもたぶん 4 つしかなかったと思います。

 

イントロ: ミカさんが掃除機で部屋を掃除し、栲象さんが何か糸鋸で細工しています。撮影が行われるのが、生活臭の漂う古い日本の家屋であることがわかります。田舎のおばあちゃん家みたいな家です。たぶん昭和の初期とか、そのくらいに建てられた建物ではないでしょうか。

 

シーン 1: 庭に座った栲象さんのインタビュー。カメラは栲象さんの横顔を捉えます。ミカさんがカメラの横にいてインタビューするんですが、ときどきミカさんの方を見る以外は、栲象さんはたばこを吸いながらずっと横を向いてしゃべります。

 

シーン 2: ミカさんがかいがいしく食事の用意をしています。テレビからかすかにバラエティー番組の笑い声が聞こえてきます。その横で栲象さんが首を吊っています。全裸のカワムラ・ナオコさんがカメラに背を向けて奥に向かってゆっくりとスリ足で歩いていきます。カワムラさんは 70 歳を超えています。

 

シーン 3: 再び栲象さんのインタビューです。シーン 1 では「どうして首吊りなのか」みたいな概念的な話でしたが、今度は首を吊るときの手順やプラクティカルな注意事項をステップ・バイ・ステップで解き明かしていきます。椅子の上に立って輪を持って解説していた栲象さんがいきなり首を吊り、しばらくぶらさがった後、こちら側に戻ってきます。

 

上映のあとにヨコシさんとの質疑応答があったんですが、前半は小津安二郎、後半はデビッド・リンチを意識したと笑いながらおっしゃっていました。

 

たしかに、そういわれると、栲象さんとミカさんのやりとりは笠智衆と東山千栄子との会話のようです。間 (ま) もそうですが、栲象さんが一生懸命説明してくれるんだけど、それがなんともいかようにも解釈できるような説明だったりとか。それから、ミカさんはいちおうインタビュアーだから距離をとって話を聞こうとするんだけど、栲象さんとミカさんはカップルなので、ある瞬間にそこはかとなく親密なトーンになったりする、その距離感とか。

 

シーン 2 と 3 の非日常と日常の境界線がなくなっていく様子も確かにリンチっぽいと思いました。

 

栲象さんはもともとはたぶん暗黒舞踏とか、そういったパフォーマンスをやってらっしゃた方なのかなと思いました。還暦を過ぎてると思いますが、贅肉はほとんどついてないです。首をつっているときの立ち姿 (立ってないけど) は背筋がまっすぐにのびて、ほんとうに美しいです。

 

ダンスをやってるらしいアイルランド人の10代だがハタチそこそこの女性が10人ぐらい見に来てたんだけど、どう思ったかなー。日本人の私でさえそうとうミスティファイされましたから、彼女たち、インパクトが強すぎてトラウマになってなければいいけど。