たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

政治的リーダーの言葉

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イギリスの労働党の話です。

 

ご存じのように、6 月の総選挙で労働党が下野し、ブラウン元首相は党首も辞任しました。党首選が開かれて、5 人ぐらい立候補してたんですが、事実上はデビッド (45 歳) とエド (40 歳) のミリバンド兄弟の一騎打ちでした。

 

兄のデビッドさんの方が下馬評は高かったんですが、エドさんが労働組合なんかの支持を得て僅差で当選しました。もう 10 日ぐらい前の話ですかね。

 

デビッドさんの方は、ブレアさんやブラウンさんの系譜に連なる人で、いわゆるニュー・レイバーの人ですね。あんまりヒダリヒダリしていない現実路線の人です。エドさんの方が伝統的な労働党の価値観に近い人でした。対立陣営には Red Ed (赤いエド) などとも揶揄されていたそうです。

 

ニュー・レイバーはちょっと今、人気がないんですね。イラクとの戦争に賛成したのは間違いだったっていう声が大きくなっているし、またいわゆるリーマン・ショックの経済の失敗もあります。デビッドさんは戦争賛成に署名もしているし、ブレアの秘蔵っ子でもあったので、労働党に変化を求める人たち、新しい風を入れたい人たちにはもう旧世代的に属する人と見られてしまったのでしょう。デビッドさんの方が実務能力はあると思いますけど。エドさんは議員に当選してまだ 5 年目だし。

 

それで、10 日ほど前の党大会で、エド・ミリバンドの党首として初めての演説がありました。演説はキャメロン首相なんかに比べると貫禄はなかったですけど、初々しかったです。

 

それで、こういう演説があると、イギリスのニュースでは専門家を何人かよんできて演説がどうだったかいろいろ批評するわけです。専門家というのは、元スピーチ・ライターとか政治家とか行動心理学者とかそういう人たちです。

 

批評の対象となるのは、もちろん何を言ったかというのもありますけど、言い方 (delivery) がどうだったかとか、身振りがどうだったかとかいうのも含まれます。

 

今回のエドさんの演説で凄かったのは、イラクとの戦争を始めたのは間違っていた (wrong) とはっきり言ったことです。ブレアさんやブラウンさんや兄ちゃんなどの諸先輩がやったことは間違いだったと言い切ったのです。これで、以前の労働党とは違うんだというメッセージを打ち出しました。それから、新しい世代 (New Generation) という言葉を何回か使って、彼らがこれからの労働党を引っ張っていくんだという意思を明確にしました。

 

お兄さんとのことも当然触れないわけにもいきません。戦いが終わって、これからは党をひとつにまとめないといけないわけですから。エドさんは、兄を「家族として愛している」と言いました。それから、冗談をいいました。「今でこそ兄は私よりも右寄りだと思われていますが、少なくとも子供の頃はそんなことはありませんでした。私が兄のサッカーボールを盗んだときのことです。兄は仕返しに、私の鉄道模型を国有化してしまったのです」。私はけっこう面白いと思ったんですけど、テレビに出てた評論家によると、「兄のことに触れる必要はもちろんあったけど、あのジョークまでは要らなかった。オチも弱かったし」だそうです。

 

しかし、イギリスの政治家を見ていると、伝えたいことがあって、伝えたい気持ちがあるということがあるというのが良く分かります。評論家の人に日本の政治家の演説も評論してほしいですね。日本の政治家は、伝えたいことがあるのかどうかもわからないし、伝えたい気持ちがあるのかどうかもわからない人も多いです。あと、死んだ魚のような目をして演説するのだけはやめてほしいと思います。

 

(写真は Ed Miliband、Wikipedia Commons から)

 

2010/12/1追記: エドさんとデビッドさんがごっちゃになってたので直しました。