たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

ロールモデル

今はどうか知りませんが、私が日本にいたころ、ってもう20年ぐらい前になりますが、バイリンガル・ギャルという人たちがもてはやされておりました。「ギャル」っていうのがもう時代を感じさせますが。英語と日本語が両方しゃべれる若い女性で、テレビやFMの番組でビデオジョッキーやらディスクジョッキーみたいなことをされてました。

 

こういう方たちの話し方には特徴があって、もちろんそういう演出もあったと思いますから本人だけの問題じゃないんですけど、鼻と口先のあたりだけ使って、なるべく心のこもった話し方をしない方が勝ちみたいなしゃべり方でした。それでまた、英語をしゃべるときの様子がとても晴れがましいんです。

 

当時は英語はまったくしゃべれなかったわけですけれど、そういうのを見ていて、ああ、英語をしゃべるときああいう風に振舞わないといけないんだったら、もう英語なんてしゃべれなくてもいいや、と思ったものでした。

 

他の言語を勉強するのは自分を表現するためでありますから、英語をしゃべるときに自分を変えてたんじゃあ本末転倒ではないか。しかし、まあもちろん、コミュニケーションは相手に理解してもらわないと意味ないいわけですから、ある程度、相手にわかりやすく自分をプレゼンテーションする必要もあります。その辺のさじ加減が難しいところであります。

 

思うにですね、日本では英語を学習するときに、ネイティブの発音をありがたがりすぎませんか。もちろん、ネイティブの発音聞いて勉強するのは大事と思いますけど、ネイティブみたいに発音しないといけない、っていう強迫観念が強すぎる。正直いって、ネイティブのようにしゃべれるかどうかはあんまり関係ないです。

 

日本語学習者の発音が悪いのを揶揄したりする日本人は多いんだけど、英語はネイティブじゃない人がしゃべってんのがもう当たり前だから、そんなの指摘しだしたらキリないし、実際、私はアイルランドで「あなたの発音がおかしいから云々」みたいなことを言われたことは一度もないし、インターネットの掲示板で議論してても「あんたの英語が間違ってるから云々」みたいなことを言う人はネイティブ・スピーカーにはいないです。オーストラリア人は除きます。

 

ちょっと脱線しましたけど、言いたいのはですね、日本人が英語を学ぼうとするときに、日本人がどのように英語をしゃべるといいのか、っていうロールモデルがないっていうことなんです。冒頭の「バイリンギャル」はロールモデルにならないですし。いや、あんな風にしゃべんないといけないんだったら死んだ方がまし、って思いましたもん。もちろん、実際には落ち着いたアメリカ人もいっぱいいるわけで、アメリカ人がみんなあんな風にしゃべってんのかと早とちりした私もいけないわけですが。余談ですが、映画観てるとアメリカ人はみんな乱暴者か情熱的に見えますけど、いや私がそう見てただけですけど、あれは劇だからそうなってるだけであって、実際のアメリカ人は控えめな人も気の弱い人もいます。

 

自分が負担に感じない程度に、しかも相手に負担にならない程度に、日本人のメンタリティを保ちつつ、日本人らしい英語をしゃべるにはどうしたらいいのか。そういうロールモデルになれる人が、もっとテレビに英語番組なんかに出てくれればいいのに。そして、たぶん、そういうしゃべり方をするための英語の言い回しなんかも蓄積していければいいと思うのですが。ネイティブだったらこういうときこう言う、もいいけど、日本人だったらこういうとき英語でこういえば、心理的負担が少ないみたいな。

 

また、日本語にある音をどう使いまわせば相手に伝わるかとか。th の音は t や d で代用できるし、単語のお尻にある r (teacher の r とか) は舌丸めなくても絶対伝わるとか。

 

私の好きな内田樹さんは、外国語教育についてこう書いておられます。

 

「現在の外国語教育は「まず」ネイティブの発音を聞き取ることから始めることを当然としている。なぜ、このような不合理な教育戦略が採択されているのか。
(中略)
オーラル・コミュニケーションを外国語教育の中心にする限り、ネイティブ・スピーカーは絶対不敗の知的威信を構造的に確保されている。

 

だから、植民地主義的発想で外国語教育を行うすべての旧帝国主義国家は、まずオーラル・コミュニケーションの習熟を植民地人民に求めるのである。

 

それはリーディングから先に教えると、できのよい植民地の秀才が短期間に「宗主国民」よりも知的に上位に立つ可能性があるからである。」(オーラル・コミュニケーションの権力性、『知に働けば蔵が建つ』文春文庫所収)

 

シンガポールの人の英語をシングリッシュなんていって、英語ネイティブの人ならともかくなぜか日本の人でも一緒になってバカにしたりしてますが、あそこまで自分の方に引きつけて英語を作り変えちゃうのは凄いです。まあ、日本はシンガポールほど英語が日常的に使われてるわけじゃないから、あそこまで行く必要はないと思いますが。

 

昔、聞いた話で、日本のハードロックバンド (ラウドネスかなんか) がアメリカ進出するっていうんで、ボーカルの人が英語の発音を直されまくって気が狂いそうになったなんて言ってましたけど、まあハードロックっていうのがそういうジャンルの音楽なのかもしれませんけど、それだったらHi STANDARD の英語の方が断然かっこいいですよね。っていうことでOK了?