クローバーヒルの珍しい郵便ポスト

ロスコモン・カウンティ博物館の係の女性に教えてもらった珍しい郵便ポストを観に行きました。ロスコモン・タウンから5分くらい車を走らせたところにあるクローバーヒル (Cloverhill) という集落。グーグル・マップで「Cloverhill, Roscommon」と検索すると出てくる場所がありますが、そことは違います。私が目指すクローバーヒルはおそらくは公式に登録された名前ではなく、教会と老人ホームと数件の家があるだけの小さな集落です。行きたい方は「St Patrick Church, Cloverhill, Roscommon」で検索してください。

さて、目的の郵便ポストはこちら。聖パトリック教会の向かい側、牧草地と道を隔てる壁に埋め込まれています。

あまりメンテが行き届いていなくて、緑のペンキがまだらに剥げかけています。こういう剥げ方をするポストをたまに見ることがありますが、ペンキの種類によるのかもしれません。グーグル・マップには2009年の画像が残っているのですが、そちらは綺麗に塗装されています。

しかし、上の写真では詳細がわかりませんね。もう少し近づいてみましょう。

投函口は開いており、集荷の時間も記載されていますから、この郵便ポストが現役であることは間違いありません。さて、この郵便ポストの珍しい点ですが、上部には王冠が描かれ、その左に E、右に R、下に VII と書かれています。E が Edward、R は Rex (王を表すラテン語) ですので、これはエドワード VII 世を表しています。したがって、この郵便ボックスはエドワード VII 世が王だった時代 (1901 - 1910) に作られたものです。

しかし、下部の蓋には S と E のモノグラムが描かれています。このモノグラムをケルトの組み紐模様が囲んでおり、上にはアイルランドの国章であるハープが描かれています。S E のモノグラムは Saorstát Éireann、すなわちアイルランド自由国を意味しています。つまり、1つの郵便ポストにイギリス王室の刻印とアイルランド自由国の刻印が同居しているのです。

SE のモノグラムが入っている郵便ポストはそれ自体あまり数は多くありません。どのような模様にするか議論するのに時間がかかったので製造を開始したのは 1928 年から。アイルランド自由国が共和国にかわるのは1937年ですから、10年程の短い期間しか製造されなかったのです。そして、その多くに刻まれているのは SE 単体 (例) か、SE と P&T の組み合わせ(例)です。P&Tは Posts and Telegraphs (英語) または Poist agus Telegrafa (アイルランド語) の略、すなわち郵便通信省のことです。郵便通信省はアイルランド自由国時代からありますから共存しているのは不思議ではありません。しかし、イギリス王室とアイルランド自由国の同居は政治上はありえないことなので珍しいのです。

アイルランド自由国ができてすぐの頃は、公式には郵便ポストに刻まれたイギリス王室のモノグラムや紋章は消せというお触れが出ていました。これは、グラインダーで紋章を削り取ったり、紋章の入った蓋を取り換えることで行われました。しかし、今でもイギリス王室の紋章のついた郵便ポストはいたるところにありますから、このお触れは徹底的に守られたとはとてもいえない状況でした。それでも一部のポストの紋章は削られたり、取り換えられたりしたのでしょう。クローバーヒルの郵便ポストも蓋が後から取り換えられたのだと思われますが、エドワードVII世の紋章も残るけどアイルランド自由国の紋章もあった方がいいということで取り換えたのか、とりあえず蓋を取り換えて後で紋章は削ればいいやと思ったのか、そのあたりはよくわかりません。この手の郵便ポストがあるのは本で読んで知っていましたが、私が実際に見たのは初めてでした。