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ロイ・キーンのサイパン事件から20年

カタールW杯がたけなわですが、20年前の日韓W杯にはアイルランドも出場していました。日本でも当時そうとう話題になったかと思いますが、アイルランドで今でも語り継がれるのがサイパン事件。主将のロイ・キーンが監督のミック・マッカーシーと衝突してチームから離脱して帰国してしまったんですね。

 

先日、RTE でも当時を振り返るドキュメンタリーが放映されました。アイルランドにお住まいの方は次のリンクからご覧いただけると思います。

 

www.rte.ie

 

これは、表面的にはよくある選手と監督の衝突のようにも見えますが、実はもっと奥が深い。イギリスとアイルランドの歴史的な経緯にまで遡るような話なのです。

 

1986年、アイルランドはジャック・チャールトンを代表監督に迎えます。チャールトンは、イングランドが1966年にワールドカップ優勝を果たしたときのメンバーです。アイルランドにとっては初めての外国人監督。

 

チャールトンの下でアイルランドは1988年欧州選手権に初出場を果たし、1990年と1994年のW杯にも出場しました。アイルランドが強くなった理由の1つは、アイルランド生まれではないけれどもアイルランド国籍の資格のある選手をチャールトンが何人もリクルートしてきたことです。

 

こうした選手の1人がミック・マッカーシーでした。マッカーシーイングランドのバーンリーという町で生まれ育ちましたが、父親がアイルランドの出身なので、アイルランド人でもあり、アイルランド代表になる資格があったわけです。

 

さて、チャールトンはマッカーシーを主将に指名します。これはもちろん、イングランド人であるチャールトン自身と生まれも育ちもアイルランド人の選手たちとの間の文化の違いを融和するためにイングランド生まれのマッカーシーを主将に起用したという言い方もできますが、悪く言えば、話の通じるイングランド生まれの選手を使ってアイルランドの選手を押さえつけたという見方もできるわけですね。

 

マッカーシーが選手を引退した後も、チャールトンはイングランド生まれのアンディ・タウンゼンドという選手を主将にしてるんですね。

 

ロイ・キーンはコークの生まれでアイルランド魂あふれる選手ですから、どうもそのことを面白くおもってなかった節がある。あるとき、ロイ・キーンが寝坊してチームの集合時間に遅れたことがあったそうです。そのとき主将だったマッカーシーが「それでもプロ選手のつもりか」みたいな感じでキーンに注意したそうなんですね。そしたら、キーンは「あれでもファーストタッチのつもりか」と返したそうなんです。つまり、あんた足元下手だよな、と言い返したわけです。

 

で、また、キーンが当時所属していたマンチェスター・ユナイテッドファーガソン監督がやり手の人で、キーンを代表に出したくないんですよ。怪我されると困るから。それで怪我をしたふりをして代表を辞退したとか、キーンはアイルランドに対する忠誠が足らんとか、いろいろ世間では言われていたわけです。

 

サイパン島でキーンが怒った直接の原因は、アイルランド協会の準備がダメダメだったことです。ピッチはものすごく固いし、キャンプ初日にはボールも届いてなかったそうです。マンUのプロフェッショナルなチーム運営に慣れていたキーンにとっては我慢ならなかったということでしょう。

 

サイパンで休日があって、他の選手はみんなでゴルフに行ったそうです。ところが、キーンはみんなでワイワイとゴルフするとか嫌いなんですよ。で、その日はメディアの取材を受けました。

 

アイリッシュ・タイムズ紙のトム・ハンフリーズという記者のインタビューの最中に、マッカーシーやチームを直接批判するような発言をキーンがした。このインタビュー記事は予定では数日後に出ることになっていたのですが、記者は非常に重大な発言があったとしてデスクに掛け合って翌日に掲載してもらうことにしました。また、誤解を招くといけないので、インタビューの全文を掲載することにしました。新聞の2面ぐらいを使っての記事になっていたのを私も覚えています。

 

で、翌日だかのチーム・ミーティングでマッカーシーがキーンに問いただし、キーンが爆発したという流れです。キーンは以下のようにマッカーシーに怒鳴ったと言われています。

 

“You’re a f***ing w***er. I didn’t rate you as a player, I don’t rate you as a manager and I don’t rate you as a person.,” Keane is alleged to have shouted at McCarthy in front of his stunned teammates.

 

“You can stick your World Cup up your a**e. I’ve got no respect for you. The only reason I have any dealings with you is that somehow you are the manager of my country! You can stick it up your b*****ks.”

 

日韓大会ではアイルランドは一次リーグを勝ち抜け、ベスト16のスペイン戦で惜しくもPK戦で敗れてしまいました。もし、キーンがいたら。。。RTEの番組の中では、「ブラジルとの決勝戦もあったかもしれない」というコメンテーターもいましたし、「誰にもわからない。スペイン戦の開始1分でキーンが退場になった可能性だってないとはいえないし」という人もいました。

 

余談になりますが、問題のインタビューをしたトム・ハンフリーズ記者ですが、この人は当時アイリッシュ・タイムズのスポーツ欄のスター記者で、英語ネイティブではない私にすらその記事の切れ味の鋭さは伝わってきました。

 

しかし、ボランティアでコーチを務めていたカムギ・チームのティーンエージャーと淫行した罪で2011年に逮捕され、その後有罪判決を受けて、スポーツライターとしてのキャリアは絶たれました。

 

 

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