エルヴィス・コステロが、彼の最大のヒット曲である『オリヴァーズ・アーミー』をもうコンサートで演奏しないと発表しました。また、ラジオ局にもこの曲をかけないでくれとお願いしています。歌詞に含まれる「white nigger」という言葉をめぐっていろいろと問題が起きているからです。「white nigger」はアイルランドのカトリック系住民に対する蔑称。コステロ自身も生まれはリヴァプールですが、アイルランド北部のカトリック系の家系です。
『オリヴァーズ・アーミー』はコステロの3枚目のアルバム『アームド・フォーセス』からの最初のシングルとして1979年に発表されました。英国ヒット・チャートの2位までのぼり、12週間チャートにとどまりました。コステロは英国で1位をとったことはなく、この曲は彼にとって英国で商業的に最も成功した曲だといえます。
この曲はコステロがベルファストを訪れた直後に書かれたもの。北アイルランド紛争に触発されて生まれた曲だといえます。イギリスの軍隊と帝国主義がテーマです。タイトルにあるオリヴァーとは、オリヴァー・クロムウェルのことです。世界史の教科書にも載っている17世紀のイギリスの軍人・政治家です。アイルランドを侵攻して虐殺・略奪を行ったので、アイルランドでは蛇蝎のごとく嫌われています。
問題の歌詞は以下のとおり。「Only takes one itchy trigger/ One more widow, one less white nigger」(お手軽に引き鉄をひけば、未亡人が1人増え、白いニガーが1人減る)
念のために付け加えますと、「white nigger」というフレーズが全体として問題なのではなく、nigger という言葉が含まれていることがとにかくダメなのです。問題視している人は、「white nigger」がカソリック系を指すのだろうが、コステロ自身がカソリック系だろうが関係ないというわけです。
コステロによれば、彼のおじいさんは第一次世界大戦時にイギリス軍の兵隊だったのですが、そのときに「white nigger」と呼ばれていたのだそうです。コステロ「これは歴史的な事実なのだが、その言葉を聞いたとたんに大騒ぎして、私が意図していないことに対して私を非難する人がいる」。
コステロは、「今この曲を書いたとしたら、考え直しかもしれない」とも話しています。
最近では、ラジオ局がこの曲をかけるときは、問題となるフレーズを消したりピー音を入れたりして放送していたそうです。コステロは、ラジオ局がこうした対応をとったことによって状況は悪化したと考えています。逆に目立たせる結果になっているというのです。だったらもう曲をかけること自体をやめてくれというわけです。
また、コステロ自身も、コンサートでこの曲を歌うときは、問題の歌詞を少し変えて歌っていたそうです。
個人的な思い出を書きますと、コステロは私も大好きなミュージシャンでした。前も書いたかもしれませんが、私はスティッフ・レコードというレーベルのレコードを集めていたことがあって、コステロのデビュー・アルバムもそこからリリースされたので、買ってよく聞いていました。彼のアルバムで一番好きなのは、今でもそのファースト・アルバム「マイ・エイム・イズ・トゥルー」かなあ。
コンサートも1回行ったことがあります。1980年代の前半だったと思いますが、場所は確か中野サンプラザ。コステロが舞台袖ではなく客席から登場して、いきなり観客総立ちになったのでした。
また、クロムウェルの話になりますと、あるアイルランド人が、「まさかクロムウェルという名前の (イギリス人の) 友だちができるとは思っていなかったよ」と話しているのを聞いたことがあります。これは、「おれは過去にとらわれずにイギリス人とも友達になれる」アピールと、「それでも忘れたわけじゃないからな」という思いを同時に込めたうまい言い方だと思いました。
去年だか、コステロの自伝が日本でも翻訳出版されて、私も購入しましたが、まだ読んでいません。
コステロは以前、ザ・ポーグスのベーシストだったケイト・オリオーダンと結婚していましたが、今は離婚してダイアナ・クロールというピアニストと再婚し、カナダのバンクーバーで暮らしているそうです。
