たらのコーヒー屋さん - 2 店舗目

たらのコーヒー屋さんです。

FAO: 普通のあなたじゃ落ちこぼれ

学校出て会社に入って営業に配属されたんですが、そのとき社内に貼り出されていた標語がこの「FAO: 普通のあなたじゃ落ちこぼれ」です。普通に働いてるだけじゃ認めませんよ、120% の力で働かないとだめですよ、と社員を叱咤激励するためのものです。なんでも得意先の大手自動車メーカーが社内で使っていた標語だそうで、それを私の上司の営業担当取締役が気に入って、うちの社内にも貼り出したわけです(この上司は今はもちろん退職なさっていますが、素晴らしい方で、いまでも日本に帰るとお会いしてお話を伺ったりしています)。

当時は世間知らずのウブな若者でしたので、そんなものかと気にもとめなかったのですが、今考えるとこの標語はひどいですよね。とりあえず、相手を否定して、役に立ってないんじゃないかと罪の意識を植え付けて、新しい価値観に染め上げてしまうという、いわば洗脳です。これは 20 年以上も前のことですので、今はこんな野蛮なやり方が行われていなければいいと思いますけど。

こんなことを書いているのは、6 月 10 日の日記にちょっと書いた、若い人の社会への Integration が日本ではあまりうまくいっていないんじゃないかと思うからです。「FAO」の標語は新入社員だけじゃなくて、社員全体を対象としたものだったんですけど、学生から社会人へのもうちょっと負担の少ない移行みたいなものが考えられてもいいと思います。

アイルランドの会社で初めて働いたとき、いろいろ驚くことがあったわけですが、その中のひとつは、納期がぎりぎりでみんなで夜遅くまで残業していたときのことです。お腹が空いたので店屋物を取ろうということになったのですが、中華のテイカウェイのメニューを片手に注文を聞いて回ったのが部長だったのです。日本だと、こういうのは一番下っ端の人の役回りですよね。

もちろん、これはその部長が「いい人」だとか「部下思いの上司」とかいうことではなくて、いやもちろんそれもあるかもしれませんけど、基本的には人心掌握術の一環としてやっていることはこちらも分かっているわけです。分かっていても、こういうのは嬉しいもので、会社に行くのが楽しくはならないかもしれないけど、苦にはならなくなります。実際、私はこの会社で働いていたとき、下っ端で責任がなかったというのもありますし、自分が外人だという気安さもあってか、たいへん楽しく働かせてもらいました。日本の「上司」の方々の名誉のために言っておくと、こちらの部長クラスは給与がすごいので、それくらい気を遣う (または、人心掌握術を駆使する) のは仕事のうちということになるかもしれません。件の部長も、たぶん私の5倍以上の給料はもらってたと思います。