土曜日の日本とアイルランドの試合で、同点の可能性がありながら、最後にアイルランドがタッチに蹴りだして試合を終わらせた件、ボーナス・ポイント (BP) を確保できたとはいえ、ラグビーに詳しい方なら誰もが「?」と思ったはずです。
まず、ラグビーに詳しくない方のために、サッカーと比較しながらルールを説明しますね。
サッカーの場合、時計を止めることなく各ハーフで 45分プレイした後、審判がプレイが止まった時間をおおざっぱに計算して、ロスタイムとして45分の後に追加します。ロスタイム (インジュリー・タイムまたはアディッショナル・タイムともいいます) の長さは審判の裁量に任されており、審判以外はいつハーフ (後半の場合は試合) が終わるか正確に知ることはできません。プレイが続いていても、審判は試合終了の笛を吹きます。
ラグビーの場合、ケガなどでプレイが止まった場合は、時計も止まります。各ハーフで40分を経過した時点で行われていたプレイが途切れた時に、ハーフ(後半の場合は試合) は終了します。時計が40分を指した時点でホーンが鳴りますので、よほどのことがない限り(歓声がすごいとか)、選手はこれが最後のプレイなんだと分かります。ただし、ボールをもっていないチームが反則でプレイを止めても試合は終わりません。これだと、勝ってるチームは40分すぎた時点ですぐに反則すればいいことになってしまいますから。
また、ラグビーW杯では、試合で勝って獲得できる勝ち点 ( 勝てば4ポイント、引き分けで2ポイント、負けると0ポイント) のほか、ボーナス・ポイント(BP)という勝ち点があります。BPには2種類あって、まずトライを4つ以上あげると、勝敗に関係なく1ポイントもらえます。また、試合に負けても、7点差以内なら1ポイントもらえます。
ここまで押さえた上で、土曜日の試合の状況を見てみましょう。日本が19対12でリード。アイルランドは自陣のゴールラインのすぐ前でボールをコントロールした状態で80分が経過したことを知らせるホーンが鳴ります。これが最後のプレイです。
トライ + コンバージョン (キック) で同点に追いつく可能性があるのですから、通常、この状況では負けているチームはプレイを続けます。自陣のゴールラインがすぐ後ろですから、ボールを失うリスクが最も少ないフォワードによるプレイで少しずつ前進を試みるのです。ゴールラインから距離ができれば、バックスに展開するなど、少しリスクのあるプレイをしてもいいでしょう。キックはまずしません。
ところが、土曜の試合に限っては、アイルランドの意思決定に影響を及ぼす要因がもうひとつありました。ボーナス・ポイントです。現在7点差ですから、このまま終われば1ポイント獲得。リスクを冒して攻めて、日本にボールを奪われて得点されれば、この1ポイントも失うわけです。グループ・リーグが終わった時点で、もし日本、アイルランド、スコットランド(またはサモア)が3勝1敗で並んだ時、このポイントが効いてくる可能性があります。
最後に蹴ったのは三番手のスタンドオフ (キックを得意とするポジション)であるジョーイ・カーベリー選手です。この日、アイルランドはファーストチョイスのスタンドオフで昨年度の世界最優秀選手にも選ばれたジョニー・セクストン選手がケガのためお休み。カーベリー選手は先発出場した2番手のジャック・カーティー選手に代わって60分から出場しました。23歳、代表出場は20回目という若い選手です。
アイリッシュ・タイムズ紙にカーベリー選手のインタビューが載っていたので訳してみます。
www.irishtimes.com
カーベリー 「チームはプレッシャーをかけられていて、何かが起こりそうな気配はなかった。ボールが突然私のところにきた。BPを獲得できる状況にあることはわかっていたが、他に多くのオプションがあったわけでもなかった」
Q. タイムアップのホーンが鳴ったのはわかっていたか?
「わかっていた。」
Q. 100m前進して、同点に持ち込めるとは思わなかった?
「もちろんそれは考えたが、私にボールが来たとき、敵は目の前に来ていた。短いキックなどを使って(ポゼッションを)失うリスクを冒したくなかった。まだビデオで見返してないが、あの時点では正しい判断だと考えた」
翻訳は以上。
試合直後は、私も「カーベリー選手、やっちまったなあ」などと思っていたのですが、このインタビューを読み、試合を見直してみて、このカーベリー選手の言葉は本心なんだろうなあと思いました。
つまり、彼自身、自分のところにボールが来るとは思っていなかったのです。当然、フォワードがボールを保持したまま攻めるんだろうなあ、と思っていた。ところが自分のところにボールが来た。この状況で自分のところにボールが来たということは、ボールを蹴ってくれ、という意味にほかなりません。
「え、どんなキックしろっていうの?」と彼は思ったと思います。ショートパントを上げて自分で追いかけて取りに行くというオプションはあるかもしれませんが、それはあまりにリスキーです。試合を終わらせる気なら、真横または後ろに蹴りだせばいいだけなのですが、心の準備ができていなかったので、中途半端に長いキックを蹴って、なんとなくタッチを割ってしまうという締まりのない終わり方になってしまいました。
おそらくチームとしての意思統一はできてなくて、カーベリー選手にボールをパスしたスクラム・ハーフ (司令塔的役割) のコナー・マリー選手の意思として、もう試合を終わらせてくれとカーベリー選手にボールを託したと私は考えます。
この意思決定が吉と出るか凶と出るか、それはグループ・リーグが下駄を履いてみるまでわかりません。この1ポイントでグループの1位と2位がひっくり返るということは十分ありえるからです。
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